「司法書士に受かれば、それなりに稼げるようになる」
難関資格ですし、そう思う人も多いんじゃないでしょうか。
でも、司法書士事務所で2年半働いた自分の結論は、かなりシンプルです。
司法書士資格を取っただけでは、年収は上がりません。
もちろん、独立して成功している先生もいますし、条件の良い事務所もあります。ただ、少なくとも勤務司法書士として働く場合、試験の難易度と給料が釣り合っていないケースは少なくないと感じました。
自分の場合、司法書士事務所で働いていた頃の年収は、入所時が約360万円、退職時でも約420万円でした。
その後、上場企業の法務へ転職し、1年目の年収は約680万円。さらにベースアップによって、そこから約30万円上がりました。
これは自分の能力が急に上がったという話ではありません。
同じ人間でも、働く環境や給与の仕組みが変わるだけで、待遇はここまで変わるという一例です。
この記事では、なぜ司法書士資格を取っても年収が上がりにくいのか、実際に司法書士事務所で働いた経験をもとに本音で書いていきます。
受験生時代から「食えない士業」という話は知っていた
正直に言うと、受験生時代から「司法書士は食えない」という情報は目に入っていました。
ただ、当時はあえて見ないようにしていました。
こっちは合格するために必死で勉強しているわけです。その最中に「取っても稼げない」「将来性がない」といった情報を見ても、モチベーションが下がるだけですからね。
問題を現実として突きつけられたのは、大学在学中に資格を取得したのち、新卒として就活をするときでした。
民間企業と、未経験で入れる司法書士事務所の条件を比較してみると、待遇には明らかな差がありました。
当時見ていた司法書士事務所の年収は、おおむね320万〜400万円程度。一方、民間のいわゆるJTCやコンサルでは、初年度から450万〜600万円、中にはそれ以上を狙える求人もありました。
しかも、比較するべきなのは年収だけではありません。
労働環境、福利厚生、教育体制、会社の安定性、その後のキャリアの広がりまで含めると、民間企業のほうが圧倒的に魅力的でした。(この議論で「いや司法書士になれよ」という資格者はいないと思います)
周りが一等地にオフィスを構える有名企業でキラキラ社会人生活を送っている中、自分だけ昭和気質な中小企業(司法書士事務所)に就職する。当時の自分には、資格取得の労力に対してあまりにもリターンが薄く見えて、その選択は取りませんでした。
司法書士事務所も民間企業も人手不足です。それでも、「どうしても司法書士実務をやりたい」という強い気持ちがなければ、民間企業を選ぶのが自然だと当時も今も思います。
聞いていた年収は400万円、ふたを開けたら360万円
その後、自分は新卒で民間企業で働いてから、転職エージェント経由で司法書士事務所へ転職しました。
入所前に聞いていた年収は約400万円。しかし、実際の初年度年収は約360万円でした。
毎年無条件で一定金額月給が上がるというシステムで、退職する頃には約420万円まで上がりましたが、資格手当等はありませんでした。
「毎年少しずつ月給が上がるなら、そこまで悪くないんじゃない?」
そう思うかもしれません。
月給の額面だけを見ると、それなりに上がっているように見えるんです。でも、ボーナスが所長の気分次第。残業代も出ない。だから年収で見ると一気にしょぼくなります。
同年代の公務員の友達と比べたときに年収が100万円以上少なくて、飲み会の帰りに落ち込んだのを覚えています。
個人事務所だったこともあり、給与や賞与に関するルールもかなり曖昧でした。
業績不振を理由にボーナスが出ないことが何度かありました。
「ボーナスリンゴ事件」なんてものもあるのですが、それはまた別の記事で書きます。
その一方で、同じ時期に所長は日産GTRやキャンピングカーを購入していました(笑)。
もちろん、車の購入とボーナスの不支給に直接の因果関係があったかまでは分かりません。
ただ、従業員からすれば、「業績が厳しいからボーナスは出せない」と言われた横で、それを見せられるわけです。
いや、どういうお笑い??、というのが正直な感想でした。
この問題については、転職エージェントともかなり揉めました。自分が士業の転職でちゃんとしたエージェントを使うことを強くお勧めする理由がここにあるのですが、長くなるので、事務所選びや転職エージェントとのトラブルについては、別の記事で詳しく書こうと思います。
繁忙期の残業は月80〜100時間。それでも残業代はゼロ
働き方もかなり厳しいものでした。
残業時間は、閑散期で月20時間ほど。繁忙期には月80〜100時間ほど働いていました。
それでも残業代は一切出ませんでした。
しかも、求人票には残業代を支給すると記載されていました。
今振り返っても、ガチでイカれているとしか思えません。
休日についても、土日に本人確認の予定が入ることがありました。片道1時間以上かかる場所まで、書類を取りに行かされることもありました。(一応これは手当がでます)
有給休暇は法律上の最低限のみ。自分が入所する前年度までは、健康診断すら用意されていないような世紀末な環境でした。
司法書士は本当に責任の重い仕事です。
書類のミスが許されないのはもちろん、取引のスケジュールや関係者への対応にも神経を使います。それなのに、給与や労働環境が責任の重さに見合っているかというと、自分はそうは思えませんでした。
決済業務や相続業務は、毎月ほぼ同じことの繰り返しだった
年収以上に不安だったのが、仕事の幅が広がらなかったことです。
少なくとも自分が担当していた決済業務と相続業務は、毎月ほぼ同じことの繰り返しでした。
これは、多くの司法書士事務所に共通する部分もあるんじゃないかと思っています。司法書士業務には、どうしても定型作業の側面がありますからね……。
決まった流れで案件を処理し、次の案件が来たらまた同じことをする。
言い方は悪いですが、感覚としては工場のライン作業とあまり変わりませんでした。
年数を重ねれば、月給は一定額ずつ上がります。
でも、新しいスキルが増えている実感は乏しい。転職市場で評価される経験が積み上がっている感覚もない。
「このまま続けても、年収も仕事の幅も大きくは伸びないだろうな」
そう感じたことが、転職を考えた一つの要因です。
もちろん、事務所によって経験できる業務は違います。ただ、若手のうちに定型業務だけを何年も続けてしまうと、次のキャリアへ移る際の選択肢が狭くなる可能性はあります。
だからこそ、最初の事務所選びはかなり重要だと思います。
それでも司法書士事務所で働いて良かった点はある
ここまでかなり厳しいことを書きましたが、司法書士事務所で働いた経験をすべて否定するつもりはありません。
自分よりもはるかに実力があり、登記に興味を持って真剣に取り組み、業界の今後を担っていく先生も多数いらっしゃいます。
そのような立派な先生方からすれば、私の発信は単に、自分が司法書士業務を楽しめない、くそつまらない人間であることを長々と言い訳しているにすぎないと思います。
もちろん、実務を経験できたこと自体は大きかったですし、「いつか独立する」という夢を持ちながら働けたことも良かったです。
また、若くても資格者として「先生」と呼ばれ、信頼してもらえる場面もありました。
年齢に関係なく専門家として扱ってもらえる。これは司法書士資格ならではの魅力だと思います。
ただし、それと勤務司法書士として稼げるかどうかは別問題です。
社会的な信用や独立の可能性はある。でも、勤務する限り、お金の面では弱い。
これが自分の率直な感想です。
上場企業の法務へ転職し、大幅に年収アップ
司法書士事務所で2年半働いた後、自分は上場企業の法務部へ転職しました。
司法書士事務所を退職した時点の年収は約420万円。現在の会社では1年目から約680万円となり、その後さらに約30万円のベースアップがありました。
正直、「なんじゃこりゃ」です。
この事実を、司法書士事務所に勤める先輩に伝えたことがあります。その先輩は勤務8年目で、年収は約600万円でした。
返ってきたのは、「(司法書士として働くの)アホくさー!」というリアクション。
自分もそう思いました。
これは、「自分がすごい転職をした」という話ではありません。
同じ人間でも、所属する業界や会社の給与水準が変わるだけで、ここまで差が生まれるという話です。
巷では「環境が大事」なんて、小学校の標語みたいに言われています。でも、本当にそのとおりなんだなと実感しました。
働き方も大きく変わりました。
現在の残業は月10時間未満で、少ない月は5時間未満。ほとんど定時で帰れています。
司法書士事務所時代にあった土日の本人確認や、休日出勤もありません。
福利厚生がものすごく充実している会社というわけではありませんが、健康診断を含め、会社員として最低限の環境は整っています。
年収が上がったうえに、労働時間は大幅に減りました。
もともと自分は激務でもやっていける体質でしたが、実際にワークライフバランスを確保し始めると新しいことに挑戦する気力がわいてきたり、仕事以外のことを考える余裕がでてきて、もう月100時間なんてぜっていできない、やりたくないと思うようになりました。
もちろん、すべての司法書士事務所と民間企業に当てはまる話ではありません。ただ、自分の場合は、勤務司法書士を続けるよりも上場企業の法務へ転職したほうが、収入と働き方の両方が改善しました。
企業法務では、司法書士の実務経験は評価の対象にならなかった
では、企業法務への転職で、司法書士資格や実務経験はどのくらい評価されたのか。
正直に言うと、司法書士事務所での実務経験そのものは、評価の対象にはなりませんでした。
司法書士資格より、高学歴であることのほうがよっぽど重要視されているようでした。(ミートくんは中堅国公立です)
司法書士業務と企業法務では、仕事内容にかなり違いがあります。登記実務の経験が、そのまま企業法務の即戦力になるわけではありません。
ある意味、キャリアチェンジに近い転職でした。実際に面接でもキャリアチェンジであると企業側にも認識されておりました。
一方で、司法書士資格を取得したということ自体は、一定の評価につながりました。
「難関資格に合格するだけの学習能力がある」という証明として、資格が役立った感覚です。
現在の仕事でも、登記実務を直接使う場面はそれほど多くありません。
登記に関する知識が役立つことはありますが、それ以上に役立っているのは、受験勉強で身につけた民法や商法などの基礎知識です。
つまり、司法書士資格が企業法務へのフリーパスになったわけではありません。
資格によって得た基礎知識と、難関試験に合格した実績が、キャリアチェンジを後押ししてくれたという感じです。
独立を考えるなら、土地家屋調査士との組み合わせは強い
司法書士資格に何を掛け合わせれば価値が上がるのか。
これは、年齢、職歴、学歴、実務経験などによって変わるので、「これさえあれば絶対に年収が上がる」と言えるものはないと思います。
ただ、独立という面で考えると、土地家屋調査士との組み合わせは強いです。
自分も土地家屋調査士資格を取得しています。
当時は独立を想定して取得しました。圧倒的な独立志望だった自分が、なぜ民間企業で働くという真逆の選択をしたのかについては、また別の記事で書こうと思います。
司法書士と土地家屋調査士の両方があれば、権利に関する登記だけでなく、表示に関する登記にも業務の幅を広げられます。
実際、自分が働いていた事務所も、司法書士事務所と土地家屋調査士事務所を兼ねていました。
独立を考える場合や、士業として仕事の幅を広げたい場合には、相性の良い組み合わせだと思います。
一方、企業への転職を考えるなら、資格を増やすことだけが正解ではありません。
企業法務、IT、業務改善、営業、マネジメントなど、資格とは別の実務経験を積むほうが、市場価値を高められる場合もあります。
司法書士資格を取って良かったのか
「それなら、司法書士資格を取った意味はなかったのか」
そう聞かれたら、自分は「取って良かった」と答えます。
ただし、「勤務司法書士として収入を得られたから、先生と呼ばれるから」ではありません。
一番大きいのは、人生で何かあっても、資格を使って最低限食べていけるという安心感です。
会社を辞めることになっても、司法書士として働く選択肢がある。独立開業する道もある。
この安心感はかなり大きいです。
ただ、勤務司法書士として働くことだけを考えると、試験の難易度や責任の重さに対して、待遇が見合っているとは言いにくいと思います。
司法書士資格には価値があります。
でも、「難関資格だから高収入になれる」「合格すれば人生が自動的に好転する」と考えるのは危険です。
もし司法書士を目指している人から相談を受けたら、今の自分なら「登記業務に興味や関心がないなら、やめておけ」と言いますね。
司法書士になれば、資格だけで殿様商売ができると思っている人もいるかもしれません。でも、実際は真逆です。
自分が経験した取引関係の中では、司法書士は形式的な立場としてはもっとも下に置かれがちでした。
資格を取った瞬間に仕事が集まり、高収入になれる世界ではありません。
今の職場に違和感があるなら、外の相場だけでも知っておいたほうがいい
ここまで読んで、「自分の事務所も似たような環境かもしれない」と思った資格者もいるかもしれません。
今すぐ転職する必要はありません。
ただ、自分の経験から言えば、現在の職場だけを基準にして「司法書士ならこの待遇が普通」「自分の経歴ではこれ以上は無理」と決めつけないほうがいいです。
同じ資格と経験でも、事務所を変えるだけで待遇が改善することがあります。民間企業の法務など、司法書士事務所以外に進める可能性もあります。
転職サービスに登録したからといって、必ず転職しなければならないわけではありません。
まずは求人を見たり、担当者に経歴を伝えたりして、自分の経験が外でどの程度評価されるのかを確認する。それだけでも、今の職場に残るか、別の環境を探すかを考える材料になります。
自分も、外の環境を知らないまま働き続けていたら、年収や働き方を変えられる可能性に気づけなかったと思います。
まとめ:資格を取った後の使い方まで考えたほうがいい
司法書士資格を取っても、それだけで年収が上がるわけではありません。
自分の場合、司法書士事務所では入所時の年収が約360万円、2年半働いた退職時でも約420万円でした。
一方、上場企業の法務へ転職した後は、1年目の年収が約680万円となり、その後さらに約30万円のベースアップがありました。残業や休日対応もなくなりました。
もちろん、これはあくまで自分のケースです。
独立して大きく稼ぐ人もいますし、待遇の良い司法書士事務所もあります。
ただ、受験生や若手の司法書士には、資格を取ることだけをゴールにしてほしくありません。
その資格を使って何をしたいのか。
勤務司法書士、独立開業、企業法務など、どの道を選べば自分の希望する収入や働き方に近づけるのか。
今の環境に疑問があるなら、そこで我慢し続ける前に、一度だけでも外の選択肢を見てみる。
そこまで考えて初めて、資格が本当の意味でキャリアの武器になると思います。
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